ATOS
ATOS社とは――電気油圧技術で産業機械の動きを支えるイタリアの油圧機器メーカー
1.ATOS社の概要
ATOS(アトス)は、イタリアを代表する油圧機器メーカーの一つです。正式にはATOS Groupとして事業を展開しており、特に「電気油圧(Electrohydraulics)」を得意分野としています。
油圧機器というと、油圧ポンプ、油圧シリンダ、油圧バルブなど、油の圧力を利用して大きな力を発生させる機械を思い浮かべます。しかし、現代の産業機械では、単純に油圧の力を利用するだけでは十分ではありません。
「どのくらいの速度で動かすのか」「どの位置で止めるのか」「どの程度の圧力をかけるのか」といった制御が重要になります。
そこで登場するのが、油圧と電子制御を組み合わせた電気油圧技術です。
ATOSは、この分野に長年取り組んできたメーカーであり、特に比例弁、サーボ比例弁、デジタルドライバ、モーションコントロール関連製品などを幅広く展開しています。
現在のATOS Groupは80か国以上に販売ネットワークを持ち、約750人の従業員を擁しています。同社が公開している企業データでは、年間売上高1億7,000万ユーロ、工場面積7万平方メートル、売上高の10%を研究開発に投資しているとされています。さらに、年間10万台以上の比例弁を生産しています。
2.1957年に始まった歴史
ATOSの歴史は1957年に始まります。
創業者はLuciano Crespi氏で、ミラノ近郊のCinisello
Balsamoで会社が設立されました。その後、1973年から生産拠点をイタリア北部のSesto Calendeへ徐々に移転しました。現在のATOS本社もこのSesto Calendeにあります。
1979年にはシリンダ部門と電子部門を設立しました。
ここはATOSを理解するうえで非常に重要なポイントです。
一般的な油圧メーカーが「ポンプ」「バルブ」「シリンダ」といった油圧機械そのものを中心に発展していくのに対して、ATOSは早い段階から電子技術との融合を進めていました。
1994年には防爆仕様の製品群を市場投入し、2000年には電子回路を内蔵したデジタル式油圧バルブの生産を開始しました。
さらに2014年には、バルブ生産全体をデジタル電子技術へ移行しています。
そして2021年にはSmart
Servopumpsを市場投入するなど、油圧機器をデジタル化・スマート化する方向へ発展してきました。2026年にはインドで新しい生産拠点も展開されています。
つまりATOSは、単なる「昔ながらの油圧バルブメーカー」ではなく、油圧と電子制御を融合させることで成長してきたメーカーだと考えると分かりやすいでしょう。
3.ATOSの主力製品「比例弁」
ATOSを語るうえで特に重要なのが比例弁です。
油圧バルブには、油の流れを単純に「ON/OFF」するものがあります。
例えば電磁弁の場合、
「電源OFF → 油圧を止める」
「電源ON → 油圧を流す」
という制御が基本になります。
しかし産業機械では、
「少しだけ動かす」
「ゆっくり動かす」
「最初はゆっくり、その後高速にする」
といった細かな制御が必要になる場合があります。
そこで使用されるのが比例弁です。
比例弁では、入力される電気信号に応じて油圧の流量や方向などを連続的に制御できます。
例えば0~10Vの電圧信号や電流信号を使って、バルブの開度を連続的に変化させることができます。
ATOSは、この比例弁に電子制御技術を組み合わせた製品を数多く展開しています。
同社の製品群には、LVDT変位センサを組み込んだサーボ比例方向弁などもあり、油圧アクチュエータを高精度に制御する用途に対応しています。
4.デジタル電子技術との融合
ATOSの大きな特徴は、油圧バルブだけを作るのではなく、バルブを制御する電子機器まで含めて開発している点です。
例えば比例弁には、電子ドライバを組み合わせることがあります。
PLCなどから指令信号を受け取り、それを電子ドライバが処理し、比例弁を適切に駆動します。
さらにセンサから得られた位置情報や圧力情報を利用すれば、フィードバック制御も可能になります。
この仕組みによって、
PLC
↓
電子コントローラ
↓
比例弁
↓
油圧シリンダ
↓
位置・圧力センサ
↓
フィードバック
という制御システムを構築できます。
これはFA機器の世界で非常に重要な考え方です。
単純な油圧機械では「力を出す」ことが中心ですが、電気油圧システムでは「必要な力を、必要な速度で、必要な位置まで正確に動かす」ことが可能になります。
ATOSはこの部分を得意としてきました。
5.幅広い製品ラインアップ
現在のATOSの製品ラインアップは比例弁だけではありません。
主な製品として、
・比例弁
・サーボ比例弁
・方向切換弁
・油圧ポンプ
・サーボポンプ
・油圧シリンダ
・サーボシリンダ
・フィルター
・油圧ユニット
・マニホールド
・電子ドライバ
・モーションコントロール関連機器
などがあります。
ATOS自身は製品を大きく「Industrial」「Ex-proof」「Stainless
Steel」という3つの製品ラインに分けています。
Industrialは一般的な産業用途向けです。
Ex-proofは爆発性雰囲気などの危険場所で使用することを想定した製品群です。
Stainless Steelは、腐食性の高い環境や流体に対する耐性を重視した製品群です。
このように、一般的な工場だけでなく、特殊環境にも対応できることがATOSの強みとなっています。
6.どのような機械で使われるのか
ATOSの製品は、油圧を必要とするさまざまな産業機械に使用されます。
例えば、
・工作機械
・射出成形機
・プレス機械
・金属加工機械
・産業用機械
・建設機械
・移動機械
・製鉄設備
・エネルギー関連設備
・特殊機械
などです。
特に大きな力を必要とする機械では、電動モーターだけですべてを動かすより、油圧を利用したほうが有利な場合があります。
油圧シリンダは比較的小型の装置でも大きな推力を発生させることができるため、大型プレスや成形機などでは現在でも重要な存在です。
そして、油圧の弱点である「細かな制御」を電子技術によって補うことで、油圧システム全体の性能を高めることができます。
この「油圧の大きな力」と「電子制御の細かな制御」を組み合わせることが、ATOSの基本的な考え方です。
7.防爆・ステンレス製品にも強い
ATOSの特徴として、防爆仕様とステンレス仕様が挙げられます。
工場によっては、可燃性ガスや蒸気などによって爆発性雰囲気が発生する場合があります。
そのような場所では、一般的な電気機器をそのまま使用することはできません。
ATOSは1994年にEx-proof製品群を市場投入しており、危険場所向けの油圧・電気油圧製品を長年手掛けています。
また、腐食性のある環境では、一般的な金属部品では耐久性に問題が出る場合があります。
そこでステンレス製の油圧機器が重要になります。
ATOSでは、腐食性環境や腐食性流体に対応するステンレス製品群も用意されています。
このような特殊用途への対応力は、単純な価格競争ではなく「技術力」で勝負するメーカーにとって重要なポイントです。
8.世界的な生産体制
ATOSはイタリア企業ですが、生産や販売をイタリア国内だけに限定していません。
現在はイタリア、中国、インド、北米などに生産拠点を展開しています。
主要な生産拠点として、Sesto Calende、Modena、Trieste、Angera、Invorioなどのイタリア国内拠点に加え、中国のShanghai、米国ペンシルベニア州York、インドのAhmedabadなどがあります。
これによって、ヨーロッパだけでなく、アジアや北米の顧客にも対応できる体制を整えています。
ATOSの企業資料によれば、グループ全体で約7万平方メートルの生産施設を持っています。
また、研究開発への投資比率を売上高の10%としており、技術開発を非常に重視していることが分かります。
9.「スマート油圧」への進化
現在の産業機械では、油圧機器にもデジタル化が求められています。
例えば従来の油圧システムでは、
「ポンプを動かす」
「バルブを開く」
「シリンダを動かす」
という単純な制御が中心でした。
しかしIndustry 4.0の時代では、
「現在どの位置にあるのか」
「どれだけ圧力がかかっているのか」
「異常が発生していないか」
「どの程度のエネルギーを消費しているか」
といった情報をリアルタイムで取得することが重要になります。
ATOSはこうした流れを「Smart Electrohydraulics」と位置付けています。
電子制御、センサ、デジタル通信などを油圧機器に組み込むことで、油圧機器そのものを「情報を扱える機器」に進化させようとしているわけです。
2021年に発売されたSmart Servopumpsも、その方向性を示す製品です。
10.FAの観点から見たATOS
FAの世界からATOSを見ると、非常に興味深いメーカーです。
日本のFA業界では、三菱電機、オムロン、キーエンス、安川電機、SMC、CKDなどの名前を目にする機会が多くあります。
これらのメーカーの中には、PLC、センサ、サーボモーター、空圧機器など、それぞれ得意分野があります。
一方、ATOSは「油圧を電子制御する」というところに強みがあります。
特に、大きな力が必要な機械で高精度なモーション制御を行いたい場合、電気だけではなく油圧を組み合わせることが非常に有効です。
例えば、大型プレス機で巨大な力を発生させながら、位置や速度を細かく制御するような用途です。
このような機械では、
PLC
→制御装置
→ATOS電子ドライバ
→比例弁
→油圧シリンダ
という構成を取ることができます。
つまりATOSは、FAシステムの中で「大きな力を精密に動かす部分」を担当するメーカーと考えると分かりやすいでしょう。
11.中古市場・保守部品としてのATOS
FA機器の修理や中古機器を扱う場合にも、ATOSというメーカーは覚えておく価値があります。
油圧機器は機械設備の中で比較的長期間使用されることが多く、設備が古くなったからといって油圧バルブだけを簡単に別メーカーへ交換できるとは限りません。
特に比例弁では、
型式
サイズ
定格圧力
最大流量
コイル仕様
入力信号
フィードバック方式
コネクタ
電子ドライバ
など、多くの仕様を確認する必要があります。
そのため、保守市場では型式の読み取りが非常に重要です。
ATOSの製品番号は一見するとアルファベットと数字の組み合わせで複雑に見えますが、製品シリーズ、サイズ、制御方式、オプションなどを読み解くことで、ある程度仕様を特定できます。
中古品や修理品を扱う場合には、単純に「同じATOS製品だから交換できる」と判断せず、型式を正確に確認することが重要です。
12.まとめ
ATOSは、1957年にイタリアで誕生した電気油圧専門メーカーです。
最大の特徴は、単純な油圧機器メーカーではなく、
「油圧」
+
「電子制御」
+
「センサ」
+
「デジタル技術」
を組み合わせた製品を長年開発してきたことにあります。
主力製品である比例弁やサーボ比例弁は、産業機械の速度、位置、圧力などを高精度に制御するために使用されます。
また、油圧ポンプ、サーボポンプ、シリンダ、フィルター、電子ドライバ、油圧ユニットなどまで製品範囲を広げており、電気油圧システムを総合的に構築できるメーカーへと成長しています。
現在は80か国以上に販売ネットワークを持ち、イタリア、中国、北米、インドなどに生産拠点を展開しています。研究開発にも積極的で、売上高の10%をR&Dに投資しているとしています。
ATOSを一言で表現するなら、
「大きな力を生み出す油圧と、細かな動きを実現する電子制御を融合させたメーカー」
と言えるでしょう。
FAの現場では、モーターやサーボだけでは対応しにくい「大きな力」と「高精度な制御」を同時に要求される機械があります。
そのような領域で、ATOSの電気油圧技術が力を発揮します。
今後、工場の自動化が進み、油圧機器にもIoT、センサ、デジタル通信、予知保全などが求められるようになるほど、ATOSが長年培ってきた「油圧+電子」の技術は、さらに重要になっていくと考えられます。
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サプライチェーン情報
弊社の流通中古市場調査で、ATOS製の製品・部品は約12,000種類確認されています。
また互換・同等の製品・部品を供給している会社・ブランドは確認できませんでした。
上記のサプライチェーン情報は2026年 08月に調査した流通在庫データをベースにしていますので日時の経過によって変動いたします。
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