VITON
VITON(バイトン)は、化学メーカー デュポン社(DuPont) が開発した高性能フッ素系合成ゴム(フッ素ゴム、FKM)のブランド名であり、現在ではフッ素エラストマーの代名詞として世界的に認知されています。したがって「VITON社」という独立企業は存在しませんが、「Viton®」はデュポン社(現:ケマーズ社〈Chemours〉が分社後に商標を継承)によって製造・供給される製品群を指します。以下では、便宜上「Vitonブランドを展開する企業とその技術体系」を「VITON社」として説明します。
■ 1. 概要:Vitonとは何か
Viton(バイトン)は、1957年にDuPont社が開発した世界初のフッ素ゴムであり、高温、高圧、薬品、燃料、オイルなどの過酷な環境下でも優れた耐久性を示す高機能材料です。
その特性から、航空宇宙、自動車、化学プラント、石油精製、半導体装置、医薬・食品機器など、極限条件にさらされる装置のシール材やパッキンとして広く使用されています。
現在、Vitonはデュポンの分社化によりChemours(ケマーズ)社が製造を継続しており、同ブランドはフッ素ゴム(FKM)市場のトップシェアを占めています。
■ 2. 開発の背景と歴史
1950年代初頭、ジェットエンジンやロケットの開発が進む中で、従来の天然ゴムやニトリルゴムでは対応できない高温・化学薬品環境への耐性が求められました。
DuPont社はすでにテフロン(PTFE)やネオプレンなどの高分子材料で成功を収めており、そこから派生する形で「耐薬品性・耐熱性を兼ね備えた弾性材料」としてフッ素ゴムを開発。1957年に「Viton®」として商業化しました。
この新素材は当初、米軍の航空機やロケット燃料系統のシール用途で採用されましたが、その後、自動車産業の燃料系パッキン、オイルシール、化学プラントのガスケット、医療装置のOリングなどへと応用範囲を拡大。
特に1970年代以降の排ガス規制や省エネルギー化の波により、高温環境で安定動作するゴム材料として急速に普及しました。
■ 3. 化学構造と特徴
Vitonは主に**フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)**の共重合体で構成され、分子中に多量のフッ素原子(F)を含むため、極めて化学的に安定しています。
そのため、以下のような特徴を持ちます:
- 耐熱性:200℃以上の連続使用にも耐え、短時間なら300℃程度にも対応。
- 耐薬品性:酸・アルカリ・燃料・潤滑油・溶剤などに対して優れた耐性。
- 耐候性・耐オゾン性:屋外や真空環境でも劣化しにくい。
- ガス透過性が低い:燃料蒸発を抑える密封性能に優れる。
- 弾性回復力:高温でも硬化しにくく、長期間安定したシール性能を維持。
こうした特性により、Vitonは「極限環境における信頼性材料」として、他の合成ゴムとは一線を画します。
■ 4. グレード展開と用途別分類
Vitonは用途に応じて多数のグレードが存在します。Chemours社はこれを「A」「B」「F」「GF」「ETP」「Extreme」などのシリーズに分類しています。
● Viton A(標準グレード)
- VDFとHFPの共重合体。
- 一般的な燃料・潤滑油・有機溶剤に対応。
- 自動車や航空機のOリング・ガスケットなど汎用シール材として使用。
● Viton B / F(高フッ素含有グレード)
- 化学薬品や極性溶剤への耐性を強化。
- 化学装置・石油精製設備・半導体製造装置に使用。
● Viton GF / ETP(特殊高性能グレード)
- 酸化剤やアミンなどの強腐食性薬品に耐性。
- 半導体製造装置のプラズマ工程や医薬品製造ラインに適用。
● Viton Extreme(最新世代)
- パーフルオロエラストマー(FFKM)に近い性能を持ち、過酷な化学環境にも対応。
- 高価だが、メンテナンス周期を大幅に延ばせるため、ライフサイクルコスト削減に寄与。
■ 5. 主な用途分野
(1)自動車産業
燃料インジェクションシステム、オイルシール、トランスミッション、EGRバルブ、ターボチャージャー周辺など、高温・高圧環境のシール部に使用。
近年の電動化車両(EV/HEV)でも、電池冷却系統や高電圧接続部の絶縁・封止材として採用が進んでいます。
(2)航空・宇宙分野
航空機エンジンや燃料ポンプ、油圧系統など、高温で燃料や潤滑油に接する部分に使用。NASAやボーイング、エアバスなどでも信頼される規格素材として登録されています。
(3)化学プラント・プロセス機器
酸・塩基・溶剤・腐食性ガスが流れる配管や反応槽のガスケット、Oリング、バルブシートなどに使用。耐薬品性に加え、ガス透過の少なさが評価されています。
(4)半導体・電子機器分野
プラズマエッチング装置、CVD装置などでの高温ガスシールに採用。金属イオンをほとんど含まず、低アウトガス性のためクリーンルーム対応に最適。
(5)医療・食品機器
FDA認証を取得したフードグレードVitonは、食品製造ラインや医療装置の洗浄工程でのシール用途に使用されています。
■ 6. 製造・供給体制と品質管理
Vitonは現在、**米国Chemours社(旧DuPont
Performance Elastomers)**がグローバルで製造・販売を行っています。主な生産拠点はアメリカ(デラウェア州、テキサス州)およびオランダ(Dordrecht)で、世界50か国以上に供給。
日本国内では、**デュポン・スペシャルティ・プロダクツ日本(旧:デュポン株式会社)**および各種ゴム加工メーカー(NOK、住友電工、パーカー、EKKなど)がViton製品を用いた成形部品を製造しています。
品質面ではISO 9001・IATF16949(自動車品質マネジメント)・ISO 14001などの国際規格に準拠し、さらに各国の航空宇宙・防衛規格(AMS-R-83485など)にも適合。長期信頼性が求められる分野での供給実績が豊富です。
■ 7. 他社フッ素ゴムとの比較
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ブランド名 |
製造メーカー |
主な特長 |
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Viton(DuPont/Chemours) |
世界標準、バランスの良い性能 |
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Daikin DAI-EL(ダイキン工業) |
日本製、低温特性に優れる |
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3M Dyneon(米3M社) |
高温耐久・低圧縮永久歪に強い |
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Solvay Tecnoflon(伊ソルベイ社) |
化学プラント・油田用途に強み |
このように、Vitonは「総合性能・安定供給・信頼性」の面で最も広く採用されているブランドです。
■ 8. 今後の展望と環境対応
近年、化学業界ではフッ素化合物(PFAS)の環境影響が議論されています。Chemours社はこれに対応し、PFAS排出ゼロ化と新規フッ素ポリマーの環境安全性評価を進めています。
また、バイオ由来原料やリサイクル可能なエラストマーへの転換も研究中であり、今後は「高性能と環境配慮の両立」を目指す方向に進化しています。
同時に、自動車のEV化・航空宇宙の再利用化(SpaceXなど)など、従来よりも高温高圧・長寿命化が要求される市場では、Vitonのような高耐久エラストマーの需要は引き続き拡大しています。
■ まとめ
Viton(バイトン)は、デュポンが生み出した世界初のフッ素ゴムであり、60年以上にわたって産業界の信頼を支えてきた高機能材料です。
その優れた耐熱性・耐薬品性・耐久性により、航空、自動車、化学、半導体、医療など、あらゆる先端産業の中核を担っています。
単なるゴム素材ではなく、「極限環境でも安全に機能し続けるためのエンジニアリングソリューション」として、Vitonブランドは今も進化を続けています。Chemours社は今後も環境対応と高性能化を両立させながら、次世代のフッ素エラストマー市場を牽引していくと考えられます。
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サプライチェーン情報
弊社の流通中古市場調査で、VITON製の製品・部品は約34,000種類確認されています。
また互換・同等の製品・部品を供給している会社・ブランドは確認できませんでした。
上記のサプライチェーン情報は2025年 11月に調査した流通在庫データをベースにしていますので日時の経過によって変動いたします。
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