BROWN Instrument
■Brown Instrument Company ― 計測と制御の源流
●創業の背景と時代的文脈
Brown Instrument Company(ブラウン・インスツルメント社)
は、アメリカ・ペンシルベニア州フィラデルフィアで Edward Longstreth
Brown(エドワード・L・ブラウン) によって19世紀末に創設された。
当時のアメリカは、エジソンによる電力システムの確立、カーネギーやウェスティングハウスによる重工業の拡大など、産業革命の第二波にあたる時期である。
工場の大規模化と共に、「温度・圧力・流量・電流」などの計測の自動化が急務となっていた。Brown社はこの課題に応える形で誕生し、**「工業計測と自動制御のパイオニア」**として知られるようになる。
●初期の製品と技術的特徴
創業当初のBrown Instrument Companyは、温度計・圧力計・流量計などの産業用指示計器を製造していた。特に、ブラウン社が開発した “Recording
Thermometer”(記録式温度計) は革新的だった。
この装置は、ペンと円形チャートを用いて温度変化を連続的に記録するもので、
「温度を人間が読む時代から、機械が自動で記録する時代」
へと転換する象徴的製品であった。
このアナログ・レコーダー技術は、のちの**自動制御(Automatic
Regulation)**の基盤となる。
主な初期製品:
- Brown Recording Thermometer(ブラウン記録温度計)
- Brown Pressure Recorder(圧力レコーダー)
- Brown Differential Pressure Indicator(差圧計)
- Brown Pyrometer(熱電対式高温計)
これらの計器は、蒸気機関、発電所、製鉄所、化学工場など、当時の重工業インフラに導入され、ブラウンの名を広く知らしめた。
●制御技術への発展:初期PID制御の原型
20世紀初頭、ブラウン社は単なる計測器メーカーから、**「制御装置メーカー」**へと進化を遂げる。
温度や圧力の変化を検出するだけでなく、それをもとに弁やヒータを自動調整する「コントローラ」を開発したのである。
これが後に有名になる “Brown Pneumatic
Controller”(ブラウン空気圧式コントローラ) であり、現在のPID制御の原型に近い動作原理を備えていた。
空気圧を信号とし、比例(Proportional)・積分(Integral)・微分(Derivative)動作を機械的・空気的に行うという、アナログPID制御器の祖先とも呼べる装置だった。
これにより、化学プラントやボイラなどで「設定温度を自動的に維持する」ことが可能となり、オペレーターの常時監視が不要になった。
この技術は工場の安全性と省力化を大きく高め、近代的な「プロセス制御(Process Control)」の出発点となった。
●Honeywellとの統合とブランドの継承
1934年、Brown Instrument Companyは Minneapolis-Honeywell Regulator Company(後のHoneywell
International) に買収・統合される。
ハネウェルは当時、空調制御や家庭用温度調節器で急成長しており、Brownの工業計装技術を取り込むことで産業分野に進出した。
統合後、Brownブランドは 「Honeywell-Brown」 として存続し、世界中のプラントで使用された。
「Brown Recorder」や「Brown Controller」は、長年にわたりハネウェルの代表的製品群としてラインナップされ、特に中東・欧州・日本のプラントでも多く採用された。
1970年代までに、Brownの技術は完全にHoneywellの**DCS(Distributed
Control System)**開発へと継承され、現在の「Experion」などの制御システムの設計思想にもその影響が見られる。
●ブラウン社の技術思想
Brown Instrument Companyの製品には一貫した哲学があった。それは、
「計測は制御のために、制御は人の安全と効率のために」
という理念である。
この思想は単に機械の精度を追うのではなく、「人と機械の協調」を重視していた。
計器の針やチャートの視認性、筐体の堅牢性、信号伝達の信頼性といった細部まで、操作する技術者の視点で設計されていたのが特徴である。
そのためブラウン製計器は、
- 耐震・耐熱構造
- 直感的なスケール配置
- 手動操作と自動制御の併用機構
などを早くから採用しており、「現場で使える計器」として定評を得ていた。
●影響と遺産
Brown Instrumentの技術は、現代のFA・プロセス制御業界に多大な影響を与えた。
特に以下の3つの分野ではその足跡が明確である:
- プロセス自動化(Process Automation)
化学・石油・発電など連続プロセスの自動化の基礎を確立。
温度・圧力のフィードバック制御思想は、DCSやPLC制御へ発展した。 - 計装工学(Instrumentation
Engineering)
ブラウンの製品は多くの大学で計装教育の教材として使用され、「計測・制御系統図(P&ID)」という概念の確立にも影響した。 - ブランド的信頼性
“Brown Recorder”という名称は、20世紀中頃まで「信頼性の代名詞」とされ、今日でも旧式機を修理して使うプラントが存在する。
また、Honeywellが今日まで掲げる「Measurement
and Control(測定と制御)」というスローガンも、実はBrown Instrument時代の精神を受け継いだものである。
●日本との関わり
日本では戦前から石川島播磨(現IHI)や日立製作所、東芝などがプラント制御を導入する際に、Brown式自動調節計を輸入していた記録がある。
戦後はHoneywell Japanを通じて「Honeywell-Brown Recorder」「Brown
Strip Chart Recorder」などが国内製造・販売され、電力、製紙、化学プラントで広く採用された。
その後、国産計装機器メーカー(山武、横河電機など)が登場し、Brownの制御思想を参考にした設計を行ったと言われている。
●総括 ― Brown Instrument Companyの意義
Brown Instrument Companyは、現代の自動化・計測技術の原点に立つ企業である。
その功績を要約すると、以下のように整理できる:
|
分野 |
貢献内容 |
|
計測 |
温度・圧力の自動記録装置の実用化 |
|
制御 |
空気圧PID制御の実装・工場自動制御の基礎確立 |
|
設計思想 |
人間中心・堅牢設計・現場視点の技術開発 |
|
影響 |
Honeywellの産業制御事業への技術継承 |
|
歴史的評価 |
「近代計装工学の父」と称される存在 |
●結び
Brown Instrument Companyは、単なる古い計器メーカーではなく、
「計測を情報へ、情報を制御へ」
という産業技術の流れを最初に形にした存在である。
現代のDCSやPLC、さらにはIoTベースの制御システムまで、その根底にある思想は、ブラウン社が築いた「信頼できる測定がなければ、正しい制御はあり得ない」という理念に行き着く。
つまりBrown Instrumentは、産業自動化の歴史の“始まりの一章”そのものである。
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サプライチェーン情報
弊社の流通中古市場調査で、
BROWN
Instrument製の製品・部品は約30,000種類確認されています。
また互換・同等の製品・部品を供給している会社・ブランドは確認できませんでした。
上記のサプライチェーン情報は2025年 11月に調査した流通在庫データをベースにしていますので日時の経過によって変動いたします。
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