ASML
1. 概要
ASML Holding N.V. は、オランダ・フェルドホーフェン(Veldhoven)に本社を置く半導体製造装置メーカーで、特にフォトリソグラフィ(露光)装置の開発・製造で世界を独占的にリードしている企業です。1984年にフィリップス(Philips)とASM
Internationalの合弁会社として設立され、半導体製造工程における最も微細な回路パターン形成に欠かせない露光技術を進化させてきました。
ASMLは現在、EUV(Extreme
Ultraviolet)露光装置という、波長13.5nmの極端紫外線を使った次世代リソグラフィ装置を唯一量産供給できる企業であり、この技術がなければ最先端の3nm・2nm世代の半導体は作れません。
2. 歴史と成長
- 1984年:ASM
InternationalとPhilipsが合弁でASMLを設立。初期は露光装置市場の後発組で、キヤノンやニコンが強い時代でした。
- 1990年代:露光装置の精度や量産性で競争力を強化。縮小投影方式のステッパー技術で成長。
- 2000年代:液浸露光技術(Immersion Lithography)を開発。水を介在させることで解像度を向上し、45nm世代以降の微細化に対応。
- 2010年代:EUV技術の実用化に注力。多額の研究開発費と長期的な投資により、競合が撤退する中で唯一のEUV供給企業となる。
- 2020年代:EUVの次の世代として「High-NA(高開口数)EUV」を開発中。2nm以下のプロセス実現に不可欠とされる。
3. 主力製品と技術
ASMLの主力製品は、大きく分けて以下の2種類です。
(1) DUV(Deep
Ultraviolet)露光装置
波長193nmのアルゴンフッ化物(ArF)レーザーを使用。多くの量産半導体工場で現在も主力として稼働しています。液浸方式のNXTシリーズなどがあります。
(2) EUV(Extreme
Ultraviolet)露光装置
波長13.5nmの光を用い、1nm台のパターン形成を可能にします。真空環境で稼働し、反射式光学系を採用。代表的な機種はNXEシリーズ。
製造にはツァイス(Carl Zeiss SMT)の超高精度反射ミラーや、1台あたり数十万点の部品が必要で、価格は1台あたり約2,000億円にもなります。
4. サプライチェーンとパートナー
EUV露光装置はASML単独では作れず、世界中の高度なサプライヤーとの連携が不可欠です。
- Carl Zeiss SMT(ドイツ):ナノメートル単位の精度を持つ反射ミラーを供給
- Trumpf(ドイツ):高出力CO₂レーザー
- Cymer(米国、ASML傘下):EUV光源の開発
- その他:真空ポンプ、精密ステージ、制御システムなどは世界各地の専門メーカーから調達
5. 市場での立ち位置
世界のフォトリソグラフィ装置市場でASMLは約9割以上のシェアを持ち、EUV分野では事実上の独占企業です。競合だったニコン、キヤノンはEUV開発から撤退し、DUV分野で一部の需要を担う程度になっています。
ASMLの顧客は世界のトップ半導体メーカーであり、代表的な企業は以下です。
- TSMC(台湾)
- Samsung Electronics(韓国)
- Intel(米国)
- SK hynix(韓国)
- Micron Technology(米国)
6. ビジネスモデルと収益構造
ASMLの収益の大半は装置販売によるものですが、保守・アップグレードサービスや長期契約による安定収益も重要です。
特徴的なのは、装置納入後も顧客工場に常駐エンジニアを派遣し、継続的に性能向上を行う「フィールドアップグレード」モデルを取っていることです。これにより、納入後も長期的な売上が見込めます。
7. 地政学と輸出規制
ASMLはオランダ企業ですが、EUV技術は米国や日本、ドイツなどの複雑な知的財産・部品に依存しており、輸出には各国の規制が関わります。
近年は米中摩擦の影響で、中国向けのEUV装置輸出は禁止され、DUV装置でも高性能モデルの供給が制限されています。これは米国の安全保障政策の一環で、ASMLも国際政治の影響を強く受ける企業となっています。
8. 研究開発と将来展望
ASMLは売上の約15〜20%を研究開発に投じています。特に注力しているのは以下の分野です。
- High-NA EUV:開口数0.55の新世代EUV。より高解像度で2nm以下プロセスを実現
- EUV量産性向上:スループット(1時間あたりのウェーハ処理枚数)の改善
- パターン欠陥検出技術の統合
- 持続可能性:省エネ化やカーボンフットプリント削減
9. 企業文化と組織
ASMLは多国籍企業であり、従業員は世界で4万人以上、国籍は100か国以上に及びます。研究者、エンジニア、物理学者、ソフトウェア開発者が協働し、複雑な装置を作り上げています。
社内は英語を公用語とし、オープンな議論とチームワークを重視する文化があります。また、顧客企業とも「パートナーシップ」に近い関係を築き、技術開発を共同で進めます。
10. まとめ
ASMLは、半導体製造の最も重要な工程である露光技術の最先端を独占的に担う企業です。EUV装置という超高度な製品を唯一供給できる存在として、世界のIT産業の進化を支える裏方でありながら、その技術的・経済的影響力は極めて大きいです。
一方で、その事業は国際政治やサプライチェーンの制約にも大きく依存しており、今後も技術革新と地政学リスクの両方と向き合う必要があります。
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サプライチェーン情報
弊社の流通中古市場調査で、ASML製の製品・部品は約25種類確認されています。
また互換・同等の製品・部品を供給している会社・ブランドは確認できませんでした。
上記のサプライチェーン情報は2025年 10月に調査した流通在庫データをベースにしていますので日時の経過によって変動いたします。
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