3COM
3Com社(3Com
Corporation)の概要
3Com Corporation(スリーコム・コーポレーション)は、1979年にアメリカ・カリフォルニア州で創業されたネットワーク機器メーカーです。インターネットの基礎を支えたEthernet(イーサネット)技術の商業化を世界で初めて行った企業として知られています。社名の「3Com」は “Computer, Communication,
and Compatibility” の3つの「Com」を意味し、「コンピュータ通信の互換性を高める」という理念を表しています。
創業者は、イーサネットの発明者として有名な ロバート・メトカーフ(Robert Metcalfe) です。彼はハーバード大学で電気工学を学び、Xerox Palo Alto Research Center(通称:Xerox PARC)で勤務していた1970年代初頭、同僚とともにイーサネット技術を発明しました。この技術は当初、研究所内でコンピュータを接続するために開発されたものでしたが、メトカーフはその商用化の可能性を確信し、独立して3Com社を設立しました。
創業期:イーサネット商用化の先駆け(1979〜1985年)
1979年の創業当初、3Comは非常に小規模な企業で、メトカーフら数人の技術者によって運営されていました。彼らの目標は、イーサネットを「オープンな通信規格」として標準化し、あらゆるコンピュータ間でのデータ通信を容易にすることでした。当時はIBMやDECなどの大企業が独自の通信方式を採用しており、異なるメーカー同士の接続は困難でした。
3Comは、Ethernetの規格(後のIEEE
802.3)を推進しつつ、自社製品としてネットワークカードやハブ、トランシーバ、ブリッジなどを開発。最初の製品「3C100」ネットワークアダプタカードは、IBM PCやUNIXマシンなど多様なプラットフォームで利用可能であり、「オープンなネットワーク接続」を実現しました。この製品群は後に企業ネットワーク構築の標準部品となり、3Comはイーサネット商業化のパイオニアとして世界的な注目を浴びました。
成長期:ネットワーク企業の代表格へ(1985〜1995年)
1980年代後半から1990年代前半にかけて、パソコンの普及とLAN(ローカルエリアネットワーク)の需要拡大により、3Comは急成長を遂げました。
特に注目されたのは、以下の技術・製品群です。
- EtherLinkシリーズ:イーサネットカードとして業界標準的存在となった製品群。信頼性と互換性が高く、WindowsやNovell
NetWareなどの主要OSで採用されました。
- SuperStackシリーズ:ハブやスイッチなどのネットワーク機器を統合した製品ライン。シンプルな構造と拡張性を両立し、中小企業から大企業まで幅広く導入されました。
- OfficeConnectシリーズ:中小規模オフィス向けのコンパクトなルータ・スイッチ・モデム製品。使いやすさと低価格で人気を博しました。
また、3Comは積極的なM&A戦略で事業を拡大しました。1987年にはBridge Communications社と合併し、ルーティング技術を獲得。これにより、LANとWANを統合するネットワークソリューションを提供できるようになります。この合併は、当時「ネットワークインフラ統合時代の幕開け」と称されました。
1990年代に入ると、企業内ネットワークの整備が進み、3ComはCisco
Systemsと並ぶネットワークインフラ企業として成長します。特に教育機関や金融機関、官公庁向けのLANシステムで高いシェアを持ち、世界中で3Comのロゴが見られるようになりました。
転機:インターネット時代と競争激化(1995〜2005年)
インターネットの普及により、1990年代後半はネットワーク産業が一気に拡大します。3Comもその波に乗り、スイッチ、ルータ、モデム、無線LANなど幅広い製品群を展開しました。しかし同時に、Cisco、Nortel、Lucent、HPなどとの競争が激化します。
3Comはこの時期、いくつかの戦略的買収を行いました。特に有名なのが、1997年の US Robotics社の買収 です。US Roboticsは家庭向けモデム市場のリーダーであり、Palm(パームパイロット)という携帯情報端末(PDA)を傘下に持っていました。3Comはこの買収により、企業ネットワークだけでなく一般消費者市場へ進出し、「ネットワークの大衆化」を目指したのです。
しかし、この戦略は必ずしも成功しませんでした。通信規格の変化やブロードバンド化の進展、さらにインターネットバブル崩壊が重なり、モデム需要は急減。Palm事業も独立を余儀なくされ、3Comの業績は急速に悪化していきます。
再編と衰退(2005〜2010年)
2000年代に入ると、3Comは再建に向けて大規模な事業再編を行いました。企業向けネットワーク機器事業を再び中心に据え、H3C(Huawei-3Com)という合弁会社を中国で設立し、アジア市場の開拓を進めます。このH3Cは、中国通信機器大手の華為技術(Huawei)との共同出資であり、当初は技術協力を目的としていました。
しかし、H3Cが急成長する一方で、3Com本体は収益基盤を失いつつありました。2007年にはHuaweiとの提携を解消し、H3Cを完全子会社化しますが、もはや往年の勢いを取り戻すことはできませんでした。
HPによる買収とブランド消滅(2010年)
最終的に、2010年、3Comは Hewlett-Packard(HP) により買収されます。買収総額は約27億ドル。HPはこの買収を通じて、自社のネットワーク部門(後のHP Networking)を強化し、Ciscoに対抗できる体制を整えようとしました。3Comの製品技術やブランドはHP Networkingの中に吸収され、企業としての3Comはここで歴史の幕を閉じます。
現在では、3Comブランドのスイッチやルータは「HP Networking(現HPE Aruba)」に引き継がれており、かつてのSuperStackやOfficeConnectといったシリーズもArubaの中で進化しています。
技術的遺産と評価
3Comの最大の功績は、Ethernetの商業化と普及 にあります。
今日、世界中のLAN通信のほとんどはイーサネット規格(IEEE 802.3)に基づいており、その礎を築いたのが3Comです。また、異なるメーカーの機器間で通信を可能にする「相互接続性」への取り組みも、インターネット技術の根幹を支えました。
さらに、3Comはネットワーク業界における標準化活動にも深く関与し、オープンスタンダードの推進を通じて、特定ベンダーに依存しない自由な通信環境の発展に寄与しました。その理念は現在の「マルチベンダー対応」「相互運用性」「オープンネットワーク」の考え方に直結しています。
まとめ
3Com社は、1979年の創業以来、イーサネットの実用化からネットワーク機器産業の形成、そしてインターネット時代の拡大に至るまで、常に通信技術の中心に立ち続けた企業でした。
最終的にはHPに吸収され姿を消しましたが、その理念と技術は、今日のLAN、WAN、Wi-Fi、IoTネットワークに脈々と受け継がれています。
つまり、3Comは「終わった企業」ではなく、現代ネットワーク社会の「始まりをつくった企業」として、今なお強い歴史的意義を持っているのです。
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サプライチェーン情報
弊社の流通中古市場調査で、3COM製の製品・部品は約600種類確認されています。
また互換・同等の製品・部品を供給している会社・ブランドは確認できませんでした。
上記のサプライチェーン情報は2025年 02月に調査した流通在庫データをベースにしていますので日時の経過によって変動いたします。
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